LINEが中国に進出してから1年余りが経ちます。
2012年12月12日にLINEが中国市場参入を宣言して以来、上海の地下鉄やバス停などではLINEの広告がたくさん見られます。
LINEは中国語では「连我」(連我/リエンウォー)という名前でリリースされています。
これは「私と繋がる」という意味です。
■上海地下鉄2号線での広告
しかし中国では、LINEとほぼ同様の機能を持つスマホアプリ「WeChat」(微信/ウェイシン)が圧倒的なシェアを持っています。
WeChatはテンセントグループ(腾讯/騰訊)が提供するメッセージアプリで、中国ユーザー数は直近のニュース記事によると6億と言われています。
中国のほとんどのスマホユーザーがWeChat(微信)を使用しており、まさに日本におけるLINEのポジションにあるアプリです。
2014年4月15日の新聞「中華工商時報」にLINEの中国展開に関する記事「LINE、中国とアメリカ市場に積極的に進出」が掲載されましたが、森川亮社長のコメントでも強敵WeChatについて触れられています。
URL:http://114.113.222.99/epaper/uniflows/html/2014/04/15/04/04_73.htm
【記事概要】
報道によると、LINEは2011年に日本でリリースされて以来急速にユーザー数を伸ばし、現在4億人のユーザーを獲得している。
日本5000万人、タイ2400万人、インドネシア2000万人、インド1800万人、その他、アメリカ、韓国、マレーシア、メキシコなどに分布する。
しかし、世界第2位の経済体である中国への参入には厚い壁にぶつかっている。中国では既に同種のアプリWeChat(微信)が高いシェアを獲得しているからである。
森川亮社長も、WeChatは非常に手ごわい競争相手であるとコメントしている。
森川社長は「いかなるハードルにぶつかろうと、中国市場でLINEの戦果はある。中国でのLINEユーザーは増え始めている。もちろんWeChatと比べるとユーザーはごく僅かな数に過ぎないが、チャンスはある。」と語った。
(※なお、取り上げられていませんが、台湾でもLINEのシェアは高いです)
●強敵WeChat(微信/ウェイシン)
まず、なぜ中国ではWeChat(微信/ウェイシン)が強いのでしょうか。
スマホが普及する前の時代、中国のパソコン上ではチャットツール「QQ」が非常に高いシェアを誇っていました。QQもWeChatと同じくテンセントグループのツールです。WeChatにQQのIDで登録されている連絡簿を取り込ませることで、QQで獲得したユーザーをWeChatに移行することに成功しました。
WeChatは個人ユーザー同士のメッセージアプリとしてスタートし、性能、機能、デザインともに非常に優れています。まさに中国ユーザーの使用習慣に合っています。
2013年からは個人同士だけでなく、B-to-C機能を強化し、WeChat Ver.5からは個人ユーザーIDに銀行口座を紐付けることにより決済機能も追加しました。これによりWeChat IDでそのままネット商取引が可能になります。
●LINEの武器
現在LINEが採用している主なプロモーション方法は、韓国ドラマ、K-POPタレントのオフィシャルアカウント、企業との提携です。2014年4月現在はユニクロとの提携キャンペーンを展開しています。
LINE独自のサービスといえばスタンプです。
中国市場向けにも個性的なスタンプを武器にプロモーションを行っています。韓国ドラマ、K-POPタレント、初音ミクなどのコラボスタンプをリリースしています。
LINEの宣伝に大きく貢献したのが2013年12月から2014年2月まで韓国SBSで放送されたドラマ「星から来たあなた」です。
このドラマは韓国での放送と並行して中国でもネット配信され、社会現象となるほど大ヒットしました。
ドラマの中では、主人公がLINEを使ってコミュニケーションするシーンが多く登場し、韓国、中国ではLINEの知名度とユーザー数アップに大きく貢献しました。
関連記事 (2014年3月3日 環球科技)
http://tech.huanqiu.com/soft/2014-03/4872887.html
【概要】
放送中の人気韓国ドラマ「星から来たあなた」の影響で、韓国のLINEユーザー1000万人突破。
中国でも2月27日の(※ドラマ最終回の日)アプリダウンロードランキグで9位に上昇。
■ドラマ「星から来たあなた」とのコラボスタンプ
今のところ中国では、韓国芸能、日本芸能の情報が得られること、またはLINEが企業と提携して行うキャンペーンで特典を得られることがLINE使用のモチベーションになっていると考えられます。
●中国ユーザーからのLINEに対する疑問
LINEは「通話無料」「メッセージ無料」を宣伝文句にしています。
スマホの普及とともにWeChatなどのアプリが現われるまで、中国では携帯ショートメッセージが盛んに使用されていました。
携帯ショートメッセージは低額ではあるものの有料です。つまり、メッセージングアプリは通信キャリアの収入源を奪ってしまったのです。
そのため、サービススタート当時はテンセントと通信キャリアとの間で摩擦が起きました。
おそらく、中国のアプリも技術的に「通話無料」機能を開発することは可能なのですが、通信キャリアとの摩擦を避けるため、あえて機能を設けていないのではと考えられます。
LINEが無料通話を提供することは、中国の通信キャリアとの間に摩擦は起きないのでしょうか。
また、中国聯通(チャイナユニコム)という比較的シェアの低い通信キャリアのグレードアップ前のユーザーからは、パケット通信でLINEにアクセスできないという声があったり、他のキャリアのユーザーからも、メッセージの送り損ねがあるなどの意見があります。
●中国ネット企業「360」(奇虎360)との提携
2012年12月にLINEが中国参入を発表した際、中国メディアがまず注目した点は、中国のネット企業「奇虎360」がLINEと提携関係を結んだという点です。
奇虎360はニューヨーク証券取引所に上場する中国ネット企業の大手です。
中国インターネット業界はこの10年で急激な成長と淘汰を繰り返し、現在はグループ化が進んでいます。
いくつかの大手ネット企業グループが、あらゆるサービスジャンルでシェアを争い巨額の資金を投じてぶつかり合う状況にあり、まさに戦国時代の様相です。
その競争の中でも特に激しいライバル関係にあるのが「テンセントグループ」と「奇虎360グループ」です。
テンセントは前述の中国シェアNo.1のWeChatを擁します。つまり、奇虎360がLINEと提携関係を結んだということは、今後テンセントと奇虎360が全面対立する際に、LINEが奇虎360陣営のメッセージングアプリとして役割を果たすのではと考えられました。
しかし、奇虎360は、「LINEとの関係は360がLINEの宣伝プロモーションを推進するという形での提携にすぎず、資本参与はない」とコメントしています。
LINEの今後の動きについては様々な可能性が考えられます。